和歌山・徳島旅行記①・近鉄特急ひのとりと雷雨の高野山

f:id:sampit77:20230123004122j:image2021年に入り、私は毎週末、徒歩旅行に傾倒している。東海道五十三次日本橋から京都まで、旧道に沿って少しずつ歩いているのだ。ゴールデンウィーク前には、静岡の掛川まで到達していた。

ゴールデンウイークはどうしようか。連日思いっきり東海道を歩きつづけるのも素敵だ。しかしそれは思いとどまった。東海道を歩くことは私にとって、日常の中でのライフワークなのだ。5日間働いて、休みの日に歩く。あくまでそのリズムの中でやるからこそ、面白いし、何よりもイカれた試みなのだ。

ゴールデンウイークはどこか別の場所に行こう。どこに行っても旅は楽しいもの。この頃、日本地図を見て地形的につくづく気になっていたのが和歌山と徳島だった。f:id:sampit77:20230123004231j:imageGooglemapでも綺麗にわかる和歌山の紀ノ川沿いと、徳島の吉野川沿いの横に伸びた断層の筋。中央構造線と呼ばれるこの大断層沿いに旅をすると、地域は違えど似たような景観が続くのではないかと気になった。

調べてみると和歌山と徳島の間にはフェリー航路があるようだし、この二つの県を巡ってみよう。ただ現地に着いたら気の向くままに柔軟に旅しよう。そういうコンセプトで2021年4月30日から5月5日まで、5泊6日の旅をしてみることにした。

1日目 東京▶︎▶︎▶︎名古屋 夜行バス

2021年4月30日(金)、この日はゴールデンウイーク前最後の出社日だ。働き方改革やテレワークなんてよその話。過酷な労働環境に身を置いていたが、何とか健康にこの日を迎える方ができた。

あとは何としても早く会社を出ることだ。この日に照準を合わせて仕事をしてきた甲斐があった。計画通り素晴らしい門出となる華金を手に入れたのである。f:id:sampit77:20230123011517j:image急いで家に帰りスーツを脱ぎ捨て、風呂に入り、バスタへと向かう。f:id:sampit77:20230123011520j:imageまずは名鉄バスで名古屋を目指す。f:id:sampit77:20230123011524j:image和歌山を旅しようとする人間で、東京から名古屋までバスで移動する者はほぼ皆無だろう。しかしここはしがない旅好きとして、出来るだけ面白い移動手段を選択したい。しかもこのバス、東京〜名古屋間を東名高速ではなく中央道で行くのだ。岐阜・恵那峡SAの休憩で清々しい朝を迎えた。

2日目 名古屋▶︎▶︎▶︎和歌山

f:id:sampit77:20230123011529j:image4時台の恵那峡で変に目覚めてしまったものだから、名古屋駅に着いた時にはかなり眠かった。朝7時、目覚めのカレーを食べる。職場で食べるカレーと違い、自由の味がする。

あえてまず名古屋に行ったのには理由がある。それは近鉄に乗りたかったからだ。近鉄といえば関西の私鉄のイメージだが、大阪から奈良を通って名古屋まで路線が伸びている。むしろ三重の名古屋に近いエリアは近鉄の地盤だ。名古屋から関西まで新幹線での移動が主流な一方、近鉄での移動はどんなものなんだろう、興味が湧いた私はここ名古屋へ近鉄電車に乗るために来た。f:id:sampit77:20230123011533j:imagef:id:sampit77:20230123011537j:image近鉄名古屋駅のホームで一際目立つ、大阪難波行き『特急ひのとり』。2020年3月から運行を始めた、デビュー間もない特急列車に乗車する。f:id:sampit77:20230123011541j:image車内は清潔で明るいが、贅沢すぎない内装が令和な感じ。事前決済を済ませていたから乗車もスムーズ。8時20分定刻に名古屋駅を出発。途中、奈良県大和八木駅まで乗る。

列車は発車するとまず伊勢湾にそって南下していく。f:id:sampit77:20230123011545j:image津駅のハングル表記が絵文字のようで可愛い。f:id:sampit77:20230123011549j:image列車は津を出て、伊勢中川という駅の手前でカーブを曲がり、南から西へと進路を変える。ここで引き続き直進する伊勢方面への線路と分かれる。f:id:sampit77:20230123011602j:image三重から奈良へ、山あいを抜けていく。f:id:sampit77:20230123011607j:imageそうこうするうちに10時02分、ひのとりは大和八木駅に到着した。あっという間の乗車時間。少し名残惜しく、ホームから見えなくなるまで見送る。f:id:sampit77:20230124005628j:image大和八木は乗り換え駅、東西を結ぶ近鉄大阪線、そして南北を結ぶ近鉄橿原線が交差する。ここで橿原線の各駅停車に乗り換えた。ホームで柿の葉寿司を売っており、奈良に来たことを実感する。f:id:sampit77:20230124005632j:imageまだ朝も早いので、橿原神宮前で途中下車してみる。f:id:sampit77:20230124005636j:image駅からまっすぐ歩くと広々とした森と大きな鳥居が現れる。橿原神宮神武天皇とその皇后を祀るため、明治天皇が創建した神社だそう。畝傍橿原宮という神武天皇が造営されたという都がここにあったとされる場所のようだ。f:id:sampit77:20230124005640j:imagef:id:sampit77:20230124005644j:image境内はとても広い。ゴールデンウィーク初日の晴れ渡った空が視界いっぱいに広がり気持ちがよい。創建が明治と案外最近の神社だが、そんなことは微塵も感じさせない威厳のある神社だった。f:id:sampit77:20230124005653j:imagef:id:sampit77:20230124005704j:image再び橿原神宮駅から近鉄電車に乗って、和歌山を目指す。車窓からは飛鳥時代の遺跡の残る町々が見える。f:id:sampit77:20230124005709j:image吉野口駅でJRに乗り換えて橋本駅へ。f:id:sampit77:20230124005714j:imageここで降りた理由は、2つ目の目的地、高野山に行くためだ。ここは和歌山県橋本市、和歌山の旅がスタートだ。f:id:sampit77:20230204172917j:image駅前で笹の葉寿司と関西出汁のおうどんを食べる。お寿司もお出汁も魚の風味が溢れていて、幸せな気持ちになる。f:id:sampit77:20230204172922j:image高野山へは橋本駅から南海電車で向かう。少し電車まで時間があったから紀ノ川まで散歩をする。f:id:sampit77:20230204172926j:imagef:id:sampit77:20230204172930j:imageここも中央構造線の上ということになるが、実際にその場に立ってみると全く分からないものだ。至極普通の大きな川だ。足だけ川に浸かってみる、そこまで水温も低くなく、ただただ気持ちが良い。f:id:sampit77:20230204172934j:image高野街道と伊勢街道の交わる場所であり、何よりも高野山への入口として、古くから栄えてきた橋本。路地に入ると、古い端正な街並みが広がっていた。f:id:sampit77:20230204172942j:image13時過ぎ、南海高野線に乗車。f:id:sampit77:20230204172946j:image橋本駅を出ると大きく右にカーブしてゆっくりと紀ノ川を渡る。前方にはこれから登る山が迫る。f:id:sampit77:20230204172954j:image難読駅名、学文路(かむろ)駅、ここはかつての高野詣りの宿場として栄えた場所だそう。f:id:sampit77:20230204173016j:image下小沢駅で離合のため長く停車。f:id:sampit77:20230204173021j:image上りの特急こうやがやってきた。静かな山間の駅。特急がいなくなると、聞こえてくるのは鳥のさえずりと風の音だけ。f:id:sampit77:20230204173025j:image単線の線路はまだまだ登っていく、木々が電車の窓にあたり、車輪は軋む音を出しながらクネクネと走る。f:id:sampit77:20230204173034j:image14時前に極楽橋駅に到着、ここから高野山へはケーブルカーとバスを乗り継ぐ。f:id:sampit77:20230204173039j:imageだいぶ山深くなり雲が厚くなる。f:id:sampit77:20230204173048j:imageケーブルカーで高野山口駅に到着、ここからのバスは、バス専用道路(一般車は通行禁止)を走り、さらに標高を上げる。霧が立ち込める山道をバスは登っていく。どんどんと俗世間から隔絶されていくようだ。f:id:sampit77:20230204173053j:imageさっきまでの山道が嘘のように栄えた門前町。お土産屋や食事処が立ち並ぶ。宿坊も数多くあるようだ。f:id:sampit77:20230226154456j:imagef:id:sampit77:20230226154501j:image真言密教の聖地、金剛峯寺へ。弘法大師が1200年前に開いた場所。境内は広大で、また少し離れた場所に奥の院という場所もあり、ごく一部しか巡れなかった。それでも聖地であるというオーラを肌で感じることができる。f:id:sampit77:20230226154505j:imagef:id:sampit77:20230226154510j:image金剛峯寺の大広間等を見学する。それぞれの部屋の襖絵が見事。f:id:sampit77:20230226154515j:image庭に出ると、石に強く打ち付ける雨の音が響いていた。f:id:sampit77:20230226154519j:image不安になり雨雲を見るととんでもないレーダーの画像が。まだゆっくりと境内を見学したいものの、これは早く切り上げた方が良さそうだ。f:id:sampit77:20230226154523j:image半ば消化不良なものの、金剛峯寺に来れて満足。山の上に開かれた密教の町、高野山大学など学びの場もあり、袈裟姿のお坊さんとも多くすれ違う。信仰の場所、静謐な空気感があった。f:id:sampit77:20230226154527j:image高野山口へ向かうバスを待っていると、さっきの雨雲レーダーの赤い部分に入ってしまったのだろう、とんでもない天気になってしまった。一瞬にして道路には水が溢れて、叩きつける雨音と雷の轟音が響く。お土産屋さんで雨宿りをしながら、高野豆腐を買う。f:id:sampit77:20230226154532j:imageバス停でびしょ濡れになり、凍えながら専用道路を通るバスで高野山口へ。高野山口駅は仏教建築と西洋建築を折衷した素晴らしいデザイン。ケーブルカーの歴史の展示も面白い。f:id:sampit77:20230226154536j:imagef:id:sampit77:20230226154540j:image雲の立ち込めた雨の景色も素晴らしかった。ケーブルカーでぐっと標高を下げ、南海電車に乗り換える。f:id:sampit77:20230226154545j:imagef:id:sampit77:20230226154554j:imageガラガラの特急高野に乗車。小さい頃、図鑑で見てフォルムが大好きだった電車。実際に慣れていることを噛み締めながら雨の車窓を眺める。f:id:sampit77:20230226154558j:image橋本駅でJR和歌山線に乗り換える。紀ノ川沿いに走る電車の窓からは、家々が並ぶ景色と田畑の景色が見える。高野山とは違い、どこにでもあるような日常の景色に少しホッとする。f:id:sampit77:20230226154602j:image雨も上がり、18時過ぎに和歌山駅へ到着。朝、名古屋を出発して約10時間、寄り道を楽しみながらようやく、宿泊地和歌山に着いた。f:id:sampit77:20230226154607j:image和歌山電鐵は猫のマーク。f:id:sampit77:20230226154611j:image駅から少しバスに乗りホテルへと向かう。かつては路面電車の走っていた街、駅からバスに乗りながら需要はありそうな都市規模なのになと思う。f:id:sampit77:20230226154620j:imagef:id:sampit77:20230226154624j:imageすっかり晴れ上がって、夕焼けになった街並みを歩道橋から眺める。f:id:sampit77:20230226154629j:imageチェックインすると、部屋の窓からは和歌山城が目の前に、これは最高だ。この景色を眺めながら明日の旅程を立てる。f:id:sampit77:20230226154637j:image初日の夜は和歌山ラーメンを。『ラーメンまるイ』で舌鼓をうつ。f:id:sampit77:20230226154633j:imageシャキシャキした九条ネギと豚骨醤油のスープが麺に絡まる。幸せな気持ちになる。素晴らしい初日の締めだ。

翌日は和歌山市から南下し、御坊市へ向かってみる。つづく。

和歌山・徳島旅行記②和歌山ローカル線の旅(紀州鉄道・御坊/和歌山電鐵/めはり寿司) - 旅の記憶